日本を代表するギタリストの福田進一さんがご自身のツイッターで、平成27年12月5日以降「ツイートでレッスン」という投稿を継続されています。ツイッターのままだとバラバラなので、一覧性を確保するためにここに纏めていきます。
爪が悪いので良い音が出ないと悩んでいるギタリストが多いが、音の良し悪しの90%はタッチで決まるのだよ。一番大事なのは、弦に触ってから、こんな音が出したいなと思ってから、弾くこと。
右指は基本タッチは付け根から動かす。真ん中の第2関節を曲げてタッチしない。いつも付け根から。先の第1関節を反らして弾くと一瞬甘い良い音がすると思うが、それは錯覚。その音は遠くまで届かない。
タッチの角度はいつも斜め。私の中指で示すが、写真左はダメ。右の様に、いつも弦に触る一点(右端)があり、そこは爪と肉の部分が同時に当たる。たえずここでキャッチして思い描いた音を作るのが奏法の基本だ。
補足)黒い線が弦だと思ってね。右端でいつも弦を捉えて左方向に滑っていくイメージで…
昨日の続き。右の一点でいつもタッチ。弦を黒く塗って指を滑らせてみると軌跡がわかる。と、僕の場合はこうなる。いつもこの黒い線で弦を触り、出したい音をイメージしてから弾く。弦は爪の側面を加速度的にすり抜けるのだ。
まだまだ続くタッチの話。アポヤンドは次の弦に寄りかかる奏法という考え方は捨てるべき。次の弦に触れたら、次の弦を感じたら、即!元の位置に指を戻す気持ちで。アルアイレも同様、撥(はじ)いたら即!脱力していた最初の位置に戻しなさい。
弾弦は、掌に見えないボールがあるようにイメージし、フワリと力を抜いた位置から開始。i / m で交互に弾く場合、i を弾いた時には m が戻っており、次に m を弾いた瞬間に i が元の位置に戻っているのが動きの基本。i / a、m / a も同様。
高音弦を弾く時、必ず低音弦に親指をのせておきなさい。手の大きな人なら6、小さな人なら4の上に、サイズに合わせて。これには2つ大きな目的がある。1つは i / m / a 各指のタッチの安定。もう1つは将来的に親指による消音(ペダル)の技術を獲得するため。
i / m 、m / a、隣り合わせの指で交互に弾く時は、先端を揃えて、軽く擦り合わせるような動き。指の付け根から動かすが、決してバタバタしてはいけない。エネルギーが、全て爪、肉、弦の交わる、例の一箇所に集中することで、パワーと繊細さを両立させるのだ。
タッチの基本をまとめよう。弦に斜めに接触し(赤)弦の抵抗を感じ、出したい音をイメージし(黄)素早く撥弦して元の位置に戻る(青)赤の角度は爪や指先の形で変化するが、運動の基本はアポヤンドもアルアイレも関係ない。
弦に寄りかからないアルアイレ奏法(左)では、接触している時間(黄)を長くし、斜め方向に弾く。寄りかかるアポヤンドは圧力が強いので垂直に近い斜め。この2つの奏法の切り替えには「触覚」と「手首の脱力」が重要!
人差し指(i)、中指(m)交互の運動が今ひとつ理解出来ない人は、一度弦を挟んで弾いてみると良い。ロクな音は出ないが、感じは掴めるはず。交互に挟んだ指で弾いてみよう。脱力せずに長時間繰り返すと指を痛めるので、やり過ぎ注意。
補筆。あくまで指の運動を理解する方法。この様に弾けと言っているのではない。実際は各指が小さな円運動を描いて元に戻るので、指の衝突音は出ない。交互に動く事を認識するための手段として覚えて欲しい。
和音を弾く時のタッチ。例えば1・2弦を i / m で和音を弾く時、両指先はしっかり重ね合せること。2本の指を1本に束ねてコントロールする。弾弦方向は単音アルアイレの時と同じ。
1・2・3弦の和音も同様、i / m / a はしっかり重ね合せ、1本の指として扱う。分離が良いからと左の様に各指を離して弾く人がいるがとんでもない。分離が良いのとバラバラな和音は違う!
補足。和音の時も、(4)で説明したポイント(爪、指頭、弦の交わる点)でいつも接触し、準備が出来てから撥音すること。
タッチが弱いと指摘されたら、指のエネルギーが全て弦にかかっているか確かめると良い。メンディングテープを使って2つの関節を軽く固定し、指先に弦の抵抗を感じ弾いたら(黄)すぐに反動で軽い円運動で戻す(赤)
(11) や (14) のようなタッチの確認をする方法は、あくまで確認であって、練習方法ではない。やり過ぎに注意。リラックスした状態から指先のみに感覚が集中し、素早く無駄のない運動で弾弦したら、すぐに弛緩。イメージした音かどうか、判断してから次の音を弾弦。
親指は付け根第3関節(青)から動かす。多くの人が第2関節(黄)を付け根と勘違いしている。第1関節(赤)から動かすのは厳禁。大きな筋肉を使わないとハーモニーの支えとなる重量感のあるしっかりした低音が作れない。
厳禁と書くのは基礎技巧の場合。もちろん上級になれば様々な関節の使い方がある。例外があるから音楽は楽しいし、発見の喜びも生まれる。が、先ずは基礎を固めてから。
右親指 P の使い方は(爪の形状にもよるが)様々な角度に対応出来ると便利。大抵が写真右上の様に接点(赤)から青方向に弾くが、私は右下の様に逆に使うことも多い。写真左の赤いポイントの幅が自由に使えれば理想的だ。
右親指の動きも基本は回転運動(赤)。この時、付け根の関節から弦との接点まで、ストレートを保つ(青)。指のエネルギーが外に逃げないようにする。先の関節が反ったり、曲がったりしない様に!
右親指は表現力豊かな演奏を生み出す源だ。基本となる明快な輪郭のある音から、柔らかくシックな音まで、様々な音の表情を作るためにはタッチもバラエティーに富んだものにしなければならない。が、先ずは次の弦に寄りかかる(アポヤンド奏法)がスムーズに出来るように。
初歩的な質問。爪の使わない部分(黄の部分)は削りおとして良いのか? もちろん演奏に不要なので、カットしても良い。ただし、僕の経験から言うと爪の耐久力がなくなり、強く弾くと欠けたりする事が多くなるようだ。
左指の基本は右指と同じ、アーチ状を出来る限り保つこと。クラシックではジャズ奏者のように第1関節を反らして押さえる技術は御法度。たまの例外はあるが、反らして押さえて良いのは人差し指(1)で小さなバレー(セーハ)をする時のみ。
出来る限りフレットの近くを押さえる。押さえたときの指の位置に注意する。掌から見て指頭の右端でフレットを感じること。一度、試しにフレットの真上を押さえてみよう。音が出ないが、徐々にずらしていくと0.数ミリ程左に最低の握力で良い音の出るスポットがあるはず。
左手を脱力して、そっとギターのネックを差し込んでみる。中指からの中心線を意識し、弦と指の作る角度に注目。内側の掌とネックの角度と相似なのがわかる。この角度を崩さないように弾けば良いわけだよね。理想を言えば!
僕個人はポジション・マークを付けません。ポジション移動は指の動く距離で覚えて、マークに頼らないようにしています。カポを使い色々な調で弾くことが多いのでポジション・マークが邪魔という事もあります。皆さん、好きずきで良いと思いますよ。
先に青線で示した指の中心軸がブレないように6弦第1フレットから人差し指1、中指2、薬指3、小指4をセットする。腕の重みが各指先に感じられたら合格。第1フレットのポジションが遠く感じる人は、第5辺りで試そう。
先に進む前に…
弦を押さえるという行為=親指とそれ以外の指でネックと弦を挟む、という考えを捨てなさい。しっかりとした指先の一点に、左腕の重みがかかることによって、スムーズなポジション移動、俊敏で柔軟なテクニックが生まれる。
弦を押さえる時、アーチ状のしっかりとした支えがあれば腕の重み(青)を指先の押さえるエネルギー(赤)に換える事が出来る。この時、裏の親指の位置が下過ぎない。親指と人差し指の間に少なくとも指二本分の空間を。
私の親指の位置(黄)を補足した。腕の重み(青)が指先に伝わり、弦を押さえる力(赤)を生み出す。親指は、そのエネルギーを支える為に使う。基本的には親指の位置はいつも同じ。ネックの中心線よりやや上に。
高音弦を弾く時は、強靱なフックで指板にぶら下がってる状態をイメージする(上)親指の位置は変えない。腕の重み(青)を後ろ方向に感じ、手首を真っ直ぐにして引く。指板との距離(黄)が開き過ぎないこと。
左親指と人差し指の間の筋肉は、例えて言えば「鶏のササミ」くらいしかない。こんな小さな筋肉を使って演奏したら疲れるのは当たり前。ここに絶えず空間を作ることによって、はじめて自在な運動が可能になる。親指と人差し指をくっつけるのは厳禁!
右の様に押さえていないだろうか?人差し指の付け根第3関節を曲げて押さえると無駄な筋肉の緊張(黄)が生まれ、押さえるエネルギー(青)は関節が逆に向かう力(赤)で相殺される。さらに親指に力が入る悪循環。全く間違った奏法!
各指が全て同じ方向に生えている人はいないはず。従って4本が弦と作る角度(青)はバラバラで当然。その指をまとめ統括し、安定した動きを作り出すのは、実は「肘」と「手首」。内側の角度(黄)を一定に保ち、肘が左右に揺れてはいけない。
左のロー・ポジションが遠く感じられる人は基本練習にカポタストを使用すると良い。例えば、ミ/ラ/レ/ソ/シ/ミの基本調弦をド#/ファ#/シ/ミ/ソ#/ド#に下げて3フレットにつければ元の音程。音色は悪くなるが、張力が下がるので初心者や女性にお勧め。
だいたい、ギターの教則本は何故ローポジションから始まるのだろうか? 弾きやすいハイポジから始めてみては? 9フレットのド#を人差し指で押さえ(肘を脇腹にぴったりつけ)ここから1つずつ下降してみよう。この時に肘が少しずつ開いていく感覚を覚えて欲しい。
昨日の続き。今度は同じく1弦9フレットC#に1234をセット。今度はEを押さえている小指に注目し、1フレットずつ降りていこう。すべての指がフレットと作っている角度を一定に保つ為には肘が一緒についていかねばならない。作業する掌全体をロボットアームが運んで行くイメージ。
左手の基本運動について要約する。肘が硬くなって動かなくなると、掌は車のワイパーの様な動きになる(赤)指と弦の接点アングルが変わるからだ。これを一定に保つには、肘が柔軟に(青)線に沿って平行に動かねばならない。
しかし全ての音がこの方法で出せるわけではない。あくまで基本のキ。技術も含め音楽は例外だらけ、だから面白い。場合によっては(赤)の運動が有効に活用されるが、それはもう少し先。肘の重要性に触れ、これ以上進むと混乱するので、左右の基礎をいったん終え、明日から別項に…
上手くなりたいと思ったら、誰かに聴いてもらう事。人前で弾くことを怖れていては何も始まらない。感想を聞くことで何かが開ける。聴いてくれる相手がいない時は犬猫でも良いから、誰かの為に弾く。自分の為にではなく…
誰かの演奏を聴いて「上手いなあ」と思うのは良い。でも、感心してるだけはダメ。自分は何故そう思ったのか、どこに感動したのか、自分が何に反応したのかを分析すること。それによって嗜好や方向性が生まれる。もし音の料理人になりたければ相手の料理を味わったら、そこで負け。
昨日、音の料理人と書いたが実際、料理人と演奏家は恐ろしくプロセスが似ている。音感教育は味覚音痴にならぬ為に必要だし、ややこしいアルペジオや音階練習も、芋の皮剥きや玉ねぎのみじん切りと同じ基礎技術。でも皆さん、最初から煮たり焼いたり… もっと見習い修業が大事!
毎日、ごく薄い紙を一枚ずつ重ねていく様な微々たる変化。でも振り返って気付けば、いつの間にか大きな一冊の本になっている。演奏もそういう風に経験、反復努力を重ねてゆっくり成長するのが自然。「突然上手くなる」なんて、まずありえない! メンタル話を終え、明日から別項です。
爪の話。人それぞれに形が違うので、絶対的な形はない。また人それぞれ1本ずつの形も違うはず。弦という直線を爪先の曲線が横切るのだから計算が必要。まず、何か鉛筆でも用意して、指先がどういう角度で弦と接しているか見てみよう。
次に真横から観察。弦を通り抜ける運動方向(青)を妨害しない角度(赤)を見つけよう。真横から見て少しでも鷲爪になっている場合、TL(10)で説明した様なコントロールは難しい。弾きやすい角度は垂直線から45度までの間にある。
45度はあくまで目安。何故45度と書いたかというと、それ以上だと弦に対する抵抗がなくなって音に力がなくなってしまうから。
教則本に書いてある様に爪の右側を短くし左側を長くしても(左)、端に弦が食い込む(赤)人が多い。教則本の形は真っ直ぐで歪みのない爪の人には有効だが、1本ずつ形が違う人には効果がない。真っ直ぐに弦が抜ける爪先(青)を作ろう。
私の薬指を見てほしい。自慢ではないがプロになるには重症な形。学生時代の突き指のせいで先端はかなり湾曲して内側に入っている。これを解決したのは、一般論とは真逆の削り方。真横から見て完全な直線(青)を得ることで悩みが消えた。
指先の中心線(緑)に目線を据え、手前45度くらいの傾斜で細かい金属ヤスリ(資生堂のが良い)を「真っ直ぐ真横に」して削る。爪先を丸くしようと(赤)しない。出来上がった先端はナイフの様に薄くなっているので、ペーパーで整える。
資生堂のネールファイルNA501は、昔キム・ヨンテさんから教わった。安くて便利で海外のギタリストへのお土産にも使っている。細かい紙ヤスリはタミヤのフィギュア用のフィニッシング・ペーパー1000〜2000番を使う。爪側面だけでなく裏面も磨くべし。
爪の整え方をやったところで結局 (1) に戻る。爪をここまで工夫しても良い音が出ないと悩んでいるギタリストよ、音の良し悪しの90%はタッチで決まるのだよ。一番大事なのは、弦に触ってから、こんな音が出したいなと思ってから、弾くこと。というわけで、明日から別項。
結局はね、「良い音」を沢山聴いて耳を鍛えるしかないのかもね。爪を工夫して、タッチを磨いても、出した音が良いか悪いかわからなければ意味がないんだから…
河野智美/@tomomikohno
本当にその通りで、正しいタッチができているかどうかは音で大体分かる。出したい音のイメージを持つためには良い音を知っているということが大事。また特別弱いとか特殊奏法などの場合は除き普通のタッチで爪が減るということはないと思っていて良い。
演奏家になる為にまず必要なのは「集中力」と「記憶力」最初に、この2つが無いと何も出来ない。でも、その先の前に進む力、さらに発展していくエネルギーを生み出すのは「好奇心」! フランスの女流作曲家で優れた教育者だったナディア・ブーランジェの言葉。
ブーランジェは、「集中力」「記憶力」があれば一応なんとかなるだろう。だが先を行くには「好奇心」が不可欠で、さらにその先を行って芸術家になるには「想像力/imagination 」もうひとつの「創造力/creation 」が必要と言っている。限りなく深い音楽の世界。
さて、その「集中力」「記憶力」だが、これだけは生まれつき能力差があるとしか言いようがなく、鍛える方法は皆無。あるとすれば、先ずは15分くらいの短い時間集中して練習、10分休んでまた15分というように「落差をつけて練習」する。集中することを意識し、習慣化する努力が必要!
記憶力にしても、先ずは短い数小節、数フレーズから覚える努力を。覚える為にはあらゆる手がかりを使うこと。両指の運指、ポジション・マークなどなど。そして、根気良く覚えたそれら記憶の断片を繋いでいくのが集中力。でも、この方法は大曲では通用しないので、先ずは1〜2分の小品から。
楽譜の記憶法だが、曲の最後のフレーズから逆に辿って覚えていくと効果的。結末を知る、結末に至るプロセスを知ることで、絶えず記憶は知っている方向、明るい方向に向かう。頭から覚え始めて、いつも途中で記憶が途絶える覚えのある人は是非。フレーズがわからない場合先ず最後の段から。
曲の途中で失敗して、「あれ?」「オッと!」とか言って頭に戻ったり、そこを反復したりする人がいるが、それは最悪の練習法。そんな事をしたら、脳がその場所でミスをした事実を記憶してしまう。曲を弾きだしたら、いつも最後まで完奏する癖をつける。けっして途中で止めてはいけない。
脳は、正しい弾き方も間違った弾き方も全てその通りに記憶する。弾き始めたら何がなんでも完奏。もし忘れたら弾かずに鼻唄で誤魔化す。ミスした部分は後から取り出して練習。いつも完奏することによって自分の中に「ポジティブな記憶」しか残さない。失敗した場所は覚えても仕方ないから。
と言うわけで、記憶には集中力が必要で、2つは密接な関係にある。実際、「この曲は夢中で弾いてるうちに指が勝手に憶えました?」とか自慢してる人がいる。しかし、そういう憶え方も万全ではない。記憶のバックアップが他になく、舞台で指がもつれたら先が出てこない。話はもっと複雑。
曲を憶えることの本質は「音程や和声で憶える」「曲のイメージで憶える」「ポジションなど視覚的な要素で憶える」等など様々な記憶アプローチの寄せ集め。肉体の動きもそのひとつ。合理的で計算された滑らかな運指はチェスの一手と同じで、強力な武器となる。逆に運指が悪いと憶えられない。
毎週、先生に一曲を習い、数週間して先生の「OK」が出たら次の曲を選んでもらい習う。残念ながら、この方法ではレパートリーを蓄積出来ない。月に一曲ずつ仕上がったとして、では1年後に12曲を憶えているだろうか?新曲で前の曲を消去しながら「忘れる練習」をしているようなものだ。
では、どうすれば良いだろう。ひとつのプログラムを作ろう。レベルは問わない。どんなに易しくても構わない。自分の実力に応じたプログラム。今の技術で弾ける楽勝の曲、少し無理かなという曲を取り混ぜ(落差を作った)約30分程度のプログラムAを作り、これを1年かけて仕上げる。
30分が無理なら15分で良い。短いプログラムAを作ってスタート。1年後に全体が仕上がったら、その中の数曲をすげ替えてプログラムBとして続けていく。学校教育で言うカリキュラムだが、そんなに難しく考えなくて良い。短距離走から始まって徐々に中距離、マラソンへと拡大していく。
「そんなやり方をしたらどの曲も中途半端になって、音楽が深まらない」と言う先生のお叱りが聞こえてくる。では1曲をいつまで練習すれば良いのか?誰も答えてはくれない。そもそも弾き込む事で音楽が深くなると思うのは錯覚。それは「曲に馴れた」だけ。新鮮な感覚は失わない様にしたい。
舞台で上がらない方法はありませんか?とよく訊かれる。実は、私も毎回上がっているのだが、質問者にはその様に見えないらしい。よく客の頭をカボチャ、大根だと思えとか言うが、そんなこと思っても良い演奏が出来るとは限らない。場数を踏んで、自分なりの解決法を見つけ出すしかない。
舞台に出て一礼、座るなりパッと弾き出す人がいる。例えばジョン・ウィリアムズ。どうして?と尋ねたら『自分に上がる隙を与えないためだよ』との答え。座った途端に弾き始める。それが彼独自の上がり止め解決法。逆にオスカー・ギリアは5分以上調弦し音楽が降りて来るのを待つ。儀式の様だ。
再び初心者へ。元来ギターはヴァイオリンの様に旋律を弾くための5度調弦の楽器ではなく、より伴奏の和音が弾きやすい4度調弦の楽器。だからと言って、最初から音階と和音、アルペジオを一緒にして始めるレッスンが多過ぎると思う。もっと旋律を弾く時間を長くしても良いのではないか?
80年頃、パリ郊外の音楽院で巨匠ロストロポーヴィチの講習会を聴講した。小さい子には「何でも思い浮かんだメロディーを音にして出しなさい」「今度はそれをいろんな調で弾いてごらん」「まずは、楽器の何処にその音があるのか、楽器の事を知るのが大事」と、徹底して教えておられた。
ギターにはフレットという「便利で厄介」なものが付いている。フレットのおかげで、初心者でも正確な音程を確保出来るが、逆にフレットのせいでレガートな歌のラインが作りにくい。もっと一本の旋律線を歌う様に弾く訓練を…和音、アルペジオは徐々に加えていこう。決して焦らないで。
3弦第9ポジションのミからポジションはそのまま変えずに、ホ長調の音階を弾いてみよう。1の指はいつも同じポジション。運指は、3(弦) 1-3, 2(弦) 1-2-4, 1(弦) 1-3-4 となる。ミ/ファ#/ソ#/ラ/シ/ド#/レ#/ミの音階。右指は、先ずはi / m のアポヤンドで。
基本的に右手親指はいつも456(弦)のどれかの低音弦に乗せている事。弦に指を押し付けてタッチしない。また、逆をつまみ上げて弾かない。指の付け根から動かす。左手は押さえた後の指を離さない。各指は「同じ高さから落ちる」開始点が高くても低くても構わないから、同じ高さから押さえる。
左指がいつも同じ高さから落ちる/押さえるというのは若い頃にチェロ奏者の友人から教わった技術。指の運動を記憶する時に、バラバラの高さから押さえていると脳が混乱するから。これはどのギター教則本にも載っていないが、非常に使える技術だと思った。
音階はローポジションのハ長調しか弾けません、と言う人が多い。で、その次のステップがセゴビア・スケールというのが実際難し過ぎる。(66)の簡単な1オクターブを各ポジションで弾いてみる。あらゆる調に運指を変えずに移調出来るギターって、簡単! 難しいという先入観を取り払う。
今度は(66)で示したホ長調の音階を1弦のみ使って弾いてみよう。運指は開放弦から始まって第2ポジ(P.2と略す)0-1 / (P.4)1-2-4 / (P.9)1-3-4。開放弦から始まる音階を1弦から5弦まで5種類作れる。6弦は2オクターブ下のホ長調が弾ける。
何故、我々は古典音楽から勉強を始めるのだろう。別にいきなり現代でも構わないのではないか?答えは明白。音楽を様式、形式といった「外枠」から捉え「バランス感覚」を養うためだ。4小節から8小節、16小節から先へ…最小単位から組立てられる音楽の構築感、その美しさを知るため。
古典以前のバロック音楽も古典以後の音楽も、ある意味通常のバランス感覚を逸脱したものが「良いもの」とされていた。タレガの前奏曲など、ものによっては5小節でフレーズが構成されていたり、和声や転調もかなり独創的。そう言えばビートルズのイェスタデイ冒頭など7小節で出来てる!
音楽は時間を操る芸術なのだから、最も単純な構成、二部形式A+Bに始まって、A+B+C、ロンド形式、ソナタ形式、変奏曲、という風に「扱う時間を延ばしていく訓練」が大事。始めて1年でタレガというのは少し早過ぎるし、技術はさて置き音楽的に無理があると思う。もっと古典を!
カルカッシの「25のエチュード Op.60」からソル、アグアドに進む前に、必ず「50の漸進的な小品 Op.59」を勉強して欲しい。この簡単な曲集を”音楽的に”弾く訓練を。私は上級者になってからも、道に迷ったらこの時点まで遡って何度も反復した。(現代ギター今月号に掲載)
”音楽的に”と言われても何をどうしたら良いか判らない人は、先ずは音楽の抑揚(イントネーション)に集中してみる。基本は旋律線が上昇すればクレッシェンド、下降すればディミニュエンド。もちろん逆の場合もあるが、それはもう少し先。いつも問題の焦点をひとつに絞って練習する。
音楽的な演奏というのは快適なカー・ドライブに似ている、自然界にある運動の法則に逆らった動き(演奏)、急激なアクセルやブレーキを多用すると事故につながる。かと言って、ただ安全に無難に平均速度以下で慣れきったルートを走っても面白くも何ともない。風景に感動する余裕も必要だし。
音楽的に弾けと言われると、いったい何が音楽的なのか?という様々な疑問が湧くはずで、テンポなのか、リズムなのか、音色なのか、音量なのか、とあれこれ悩む事だろう。一気に全てを解決しようとせず、ゆっくり1つずつ考える習慣をつける。今月は徹底的にテンポの月!みたいな感じで。
左指が弦から外れる。ギターという楽器の大きな悩みで、どんな名手にも起こりうる。すでに(30)前後で説明したように、指先が弦とつくる角度をなるべく一定に保つことは鉄則。さらに「押さえる⇒移動して押さえる」を「押さえる⇒脱力⇒移動⇒押さえる」と分解して考える。
もっと細かく言うと「押弦⇒次を押弦」という2ステップではなく、「押弦⇒真上に上げ脱力⇒次の押弦位置に移動⇒真下に押弦」と3〜4のステップで考える。押さえながら次に行こうとすると弦を斜めに擦ることになり、ギター特有のキュッという音がする。脱力して移動が基本。
アンサルブルが合わない!という悩みをよく聞く。でも、日本人は「合わせ」において外国人には理解不能、辞書にも載っていない魔法の呪文を知っている。他人と音楽を合わせるなどという高次元の感覚の無い素人でも知っている魔法の言葉。それは…「せーの!」さて、問題はその使い方。
皆で仲良く「せーの」と言った…にもかかわらずテンポがバラバラなのは単純にタイミングの問題だけではない。一番の原因は、共演相手の音を聴いていない事。いや音を聴く前、音を出す前の相手の呼吸を聴いていない事にある。弾き始め、いったい何に集中するのかを考えよう。
「せーの」と言う速度、更に言う直前の呼吸の速度の違い。さらにアクセントの位置は「せー」にあったのか「のー」にあったのか?Aさん「せーのっ!」Bさん「せーの?」Cさん「せえのお」などなど、合図の呼吸速度が異なってたら合うわけがない。撥弦楽器は一瞬の間合いでズレが目立つ。
私は決して「せーの」擁護派ではない。そりゃ「せーの」を使わず一瞬の阿吽の呼吸で始まるのがプロだしアマもそれが理想的。でも、「せーの」はなんとも便利であって、誰もが解る和製音楽用語で愛らしい。出来れば曲の開始は、一瞬呼吸を止めて集中し、心で「…」と言ってから始めよう。
タブ(TAB)譜でないと弾けない、五線譜が苦手、という若者が増えている。クラシック・ギターと、アコースティック(ポピュラー)ギターの境界線がどんどん薄れていった結果かも知れない。クラシックに進むのなら五線譜を勉強するのは必須。タブ譜は一見解りやすいが情報量が少な過ぎる。
歴史的に16世紀のビウエラやリュートの音楽はタブ譜で書かれていた。数字やアルファベットで押さえる場所を記録する方法。これが後に五線譜に置き換わった大きな理由はタブ譜には多くの声部を認識し、弾き分ける機能がないから。その楽器にしか通用しない言葉で書かれた楽譜では困るし。
タブ譜しか読めないと、音楽理論も勉強できないし、仮に高度な技術を獲得したとしてもそれを発展させることが出来ない。他の楽器の人に見せても伝達出来ない。フラメンコやジャズの即興の達人で譜面の読めない人もいるが、クラシックには皆無。辛くても頑張って五線譜にトライして欲しい。
練習に行き詰まったら、楽器を新しくするのは有効だ。私は初級から中級、中級から上級に向かうに従って約3〜4年の周期で変えた。楽器は先生よりも長時間付き合ってくれるパートナーであり、楽器が先生となって教えてくれる事は多い。自分の技量には少し贅沢かなと思うくらいの楽器が良い。
では、どんな楽器が良い楽器かと言えば、それは各自の好みで弾き易さも含めて音色が気に入ったもの…となるのだろうが、私は張力の弱い甘い音色の楽器には用心した方が良いと思っている。しっかりした弦の抵抗を感じる楽器、名器であればあるほど、弦が指先を押し戻す様な感覚があるものだ。
究極の名器御三家「ハウザー/ブーシェ/フレタ」のクラスになると、相手が素人だとガチガチに固くてタッチを受け付けてくれない。(8)前後で述べた様にしっかりして、かつ柔軟なタッチでないとコントロールなど出来ない。強靭さと暖かさなど、「相反する要素を合わせ持つ」のが名器。
ギタリストほど自分の楽器に無頓着、メインテナンスをしない種族もない。ほとんどの人が買った時のままの楽器を「カスタマイズしないで」弾き続けている。押さえにくくなっても、それは歳のせいで筋力が落ちたからだと良い方法で我慢している。年に一度必ず楽器をメインテナンスする事!
12フレット上で6弦の下からフレットの頂点までを4ミリ、1弦の下からフレットの頂点までを3ミリ。それを超える弦高なら高すぎて押さえにくいのは当然。私は6弦側で3.8ミリ、1弦側を2.8ミリという超低い設定。弦の張力もローテンションのゆったりしたものを選んで張っている。
高い弦高の楽器をビシバシ弾くのが格好良いとか、弦は張力がある方が良く鳴るとか言う人がいるが、個人的にほとんど妄想に近いと思う。今まで、ジョン、ブリーム、パコ、弾かせてもらった巨匠の楽器はどれも驚くほどローテンションだった。音の張りと迫力は音色と音楽で決まると信じたい。
ギターは簡単に音色を変えることが出来る楽器。しかし、例えばカルカッシ教本の最初のハ長調のワルツ、その中間部はイ短調になるが、ここを全く同じタッチ、同じポジションで弾き続ける人が多い。自分で暗い音に感じないのか、もうちょい指板寄りでとか先生は教えてくれないのだろうか。
初心者の間から敏感に音色、色彩を感じて瞬時にタッチに反映させる訓練が必要だ。最初はハッキリ弾く事が大事だが、徐々にぼかした音、暗い音も覚えていく。それは指先のほんのちょっとしたコントロール、まずは基本の位置から少し指板よりで柔らかく弾き、駒よりで硬く弾くの違いを知る事。
次に手首を表面板から高く離したタッチ、逆に低く寝かせたタッチ、色々な角度で弾いてみよう。爪だけ、指頭だけ、あっ、こんな音も出るのか!と子供のように発見し感動して欲しい。まさに楽器と戯れるという感じで。大人になると、そういう遊びと発見よりも決められた作法を重視してしまう。
さて、テンポの話。子供の頃から何を弾いても速いし、落ち着きがない。もっとゆっくり弾けと周りの大人に言われてきた。そして自分が大人になり、人を教えるようになって、ほとんどの才能ある子供が速弾きであるのを知った時、あれは若い芽を摘む大人たちの策略だったのか!と気付いた。
誰もが認識している事だが、子供の頃は時間がゆっくり流れた。それは脳が成長しながら高速回転しているからで、大人の逆の目から見れば速く弾くのは当然なのだ。体感している時間が違うのだから… 私は速く弾く子を止めない。ただ、その速さに耐える技術、身体を持ちなさいと教える。
補筆。もちろん、ラルゴやアンダンテのゆっくりした曲をアレグロで速く弾いたら注意しますよ。私が話しているのは基本的な「体の持っているテンポ感」の話。
速く弾ける人はコントロールを学ぶ事でゆっくりも弾けるようになる。しかし、その逆は難しい。同じ理屈で大きな音で弾けるなら、繊細さも獲得出来るだろう。音楽性、創造性、芸術性に行くずっと前の初期段階にアスリート的なやり方を徹底させないとプロへの道はない。これは厳しい現実。
とにかく良い演奏を沢山聴き、耳を肥やせと教えられた。師匠のオスカー・ギリアからは、本物の「歌」とは何かを知りたければ、フランク・シナトラを聴けと言われた。先日紹介したアーノンクールの最新盤「第4&運命」のライナーを読んでいて、巨匠もシナトラの歌について触れていて驚いた。
アーノンクールは名著「古楽とは何か(音楽之友社)」を引き合いに出すまでもなく、そのアプローチの全てが音楽的で、ウンチクの宝庫。「第4&第5運命」の寺西肇氏のライナーノートは、丁寧な訳と共に必読の価値あり。もちろん、CDは必聴。既成概念を覆す驚きと新しい響きに満ちている。
今の若者にフランク・シナトラなんて古過ぎてわからないか…私が生まれた頃の録音。ハイレゾ配信で聴くと50年代これほどハイセンスなアレンジと録音が行われていたと驚く。さて、ツイートでレッスン、ちょうど100回でキリが良いので、次回から一段階アップして、テクニックの項。
100番台からは、未だ会ったことのない若者 "ギタリストの卵" を想定し、彼/彼女への140字のレッスンを続けます。
良いタッチから生み出される音には必ず「芯」がある。理論的には、その芯に含まれる倍音が高く力強いほど遠達性に富んだ音になるのだが、これが芯だけでも、ギスギスしたキツい音になる。そこには潤いが必要で、芯の周囲にまとわりつく"ある種の光沢"が音色の良さを決定する。
美しい音の定義は様々。芯のある力のある音、ここに宝石と同じで透明感、輝度が加わる。さらに表現力のある伸びやかさ、遠達性。ここに人間的な温もり、暖かな質感と情感、それらを兼ねた音…という風に急いでどんどん追求すると、自分の個性を見失う。まずは最初の目標を作ろう。
クラシック・ギターの場合、耳は、なるべく楽器から遠ざけた方が良い。音を楽器そのものから直接聴くのではなく、楽器と楽器から出て周囲に当たって返ってきた音を合成した音を聴く感覚を持つ。そういう意識を持つ演奏から聴こえるのは響きの「立体感」当然、自動的に、姿勢も良くなる!
補筆。もちろん耳を近づけて弾く名手もいる。ロメロ、アサド兄弟など…ヴァイオリンのように耳を遠ざけられない楽器もあるし(さぞかし、うるさいだろうな…)まあ、姿勢も良くなって一石二鳥。試してごらん。
もう1つ大事なのは、楽器の振動を身体で感じること。胸、腹に伝わってくる楽器の震え、また良いギターになると左指先に伝わる僅かな震えまでも感じられる。「抱きかかえて演奏する楽器」の持つ最大の魅力を味わうべきだ!ただし、音に溺れない、酔わない、適度な距離感は必要。
ギターは実際の音よりオクターブ高く記譜される「移調楽器」と認識している人が少ない。思っているより低音寄りの楽器。低音をしっかり弾かないと、逆に高音が強調され過ぎて薄っぺらな演奏になってしまう。特に演奏会では、周波数の低い音ほど遠くに飛ばないので、立体感に影響する。
低音が弱くなる理由は(104)で話した事にも関わっている。振動が低い音ほど身体に直接伝わってくるし、さらに低音弦の方が耳に近い。バランス的に高音が不足しているように感じてしまい、補おうと高音側が強くなってしまう。これは録音で自分の演奏を客観的に聴くのが一番の解決法。
私が本番前に楽屋でする事。軽く各弦をタッピング。0-1/0-2/0-3/0-4/ いつも同じ高さ(位置)から落として同じポイントでタップする。音は出さなくて良い。左指のリラックスと確実性を高めるのに効果的。
本番前に楽屋でする事、其の弐。昨日の逆の動き 1^0/2^0/3^0/4^0と順に弦をスラーする。1から6弦まで、同じ高さから引っ掛けて同じ位置がいつも当たるように。本番まで後25分!
本番前に楽屋でする事。其の参。叩くスラーの練習、1-2/1-3/1-4、2-3/2-4、3-4 その逆の引っ掛けるスラー、2-1/3-1/4-1、3-2/4-2、4-3。さらにスラーのコンビネーション 1-3/2-4 その逆の 3-1/4-2 反復すると効果的!
良い演奏、いわゆる名演には2つの相反する感覚が絶妙のバランスで盛り込まれている。例えば、「迫力」と「繊細さ」が同居する演奏。一歩間違えば、恣意的に「乱暴」であり、無意識のうちに「軟弱」という最悪の結果に。最初から正しい道順で音楽と技術を学ばないと絶対辿り着けない。
「迫力」と「乱暴」はどう違うのだろう?ロックと違ってクラシック音楽の場合、フォルテは「丁寧」でないといけない。しかし丁寧にこだわるとインパクトが失われる。で、激しく弾くと演奏が粗雑になる。この問題をどう解決したら良いか…時々、正面から向き合って考えるべきだ。
逆に「繊細な」演奏表現に注目してみよう。これも「線の細い」演奏と表裏一体。心を込めて弾いていても、少しでも不安感があれば、結局は人に伝わらない。この不安を産むのは、技術、音楽知識、記憶、等などへの自信の欠落。他にももっとある様々な要因を内省し、取り除く心構えがいる。
先ず旋律線の抑揚を感じ、次にハーモニーの変化を敏感に感じ、それを表現する(人に伝える)技術を初歩から「確実に」積み上げていく。すべてはそこから始まる。正しい道を歩いているという確信と余裕のある技術から生まれる表現だけが先の矛盾を解決する。TL37〜40も再読の事。
弦楽器の仕組みを知る上でも、自然ハーモニックスの技術はレベルに関係なく、早いうちに習得しておこう。12フレット(12fと記す)は弦の長さの半分でオクターブ上。5fは、4分の1でさらにオクターブ上が鳴る。軽く触れて鳴らすが、右指の弾弦位置はやや駒よりが鳴りやすい。
では、弦長の3分の1のポジションは? 7フレットになる。しかしもう一箇所あって、逆に駒(ブリッジ)から3分の1の場所、つまり19フレットでも同じ高さのハーモニックス音、オクターブ上の5度が鳴る。次回は、先のTL(114)の知識と組み合わせて正確に調弦する技術を。
実音でも同じだが、6弦5fと5弦7fのハーモニックス(ミ)で調弦、順に5弦5fと4弦7fのハーモニックス(ラ)、次は4弦5fと3弦7fで(レ)というふうに順番に合わせていく人がいる。これでは最終的に音が合わない。一箇所でも間違えば、その音程差が広がってしまうから。
調弦は必ず押さえた音あるいは開放弦の実音と自然ハーモニックスで比べる。最初に音叉やチューナーで5弦のラの音を決めたら、5弦5fハーモニックスのラと1弦5fを押さえたラを比べる。次に1弦の開放弦ミと5弦7fのミを比べ、この2本の弦を確定する。以後、1弦5弦には触らないこと!
次に6弦5fハーモニックスと1弦開放のミを比較。6弦を決定したら6弦7fハーモニックスと2弦のシを決める。2弦12fのハーモニックスと1弦7fの実音シを確認。今度は1弦5fの実音ラと4弦7fハーモニックスを比較。さらに1弦3fの実音ソと3弦12fハーモニックスを合わせる。
ハーモニックスは高次倍音と呼ばれ、もともと低音に含まれている音。これと高音の実音を比較する事によって聴き取りやすい音どうしにして比較する。実際、数値的にはぴったりでも心地良くない時もあるので、我々プロは演奏するキーの主和音、属和音を弾き、響きの最終チェックをする。
書き忘れたが、もちろん3弦12fハーモニックスと2弦8f実音ソ、4弦12fハーモニックスと3弦7f実音レも比べ、レとラ、ラとミ、ミとシ、など各弦の完全5度の濁りがないかもチェックすること。次回から別項。
記憶について再考。「いつの間にか指が憶えてくれました」的な記憶法は危ないと以前書いた。実際、最近でも機構案をキッコーマン、汚染水をおすいせんと言い間違えて笑われている人がいるが、話はこれと同じ。結局、脳を通らない「慣れ」で話す=弾くことが失敗の繰り返しにつながる。
耳だけで憶えているのも問題。確かに面倒くさいかもしれないが、苦労して暗譜が出来たと思っても、もう少し譜面を見よう。特に音符は正しくても「音の無い場所、休符やフェルマータの長さ」は意外と記憶出来ていない…弾き込んだ曲ほど表現は自由になるが、逆に記憶が曖昧になるからだ。
コンクールに出るくらいのレベルでも、ギター音楽以外は興味無いという若者が多い。他の楽器やオーケストラの音楽は他人事だと思っている。そのくせ、アランフェス協奏曲が弾きたいと言うなら、オーケストラを知らなければ無理だよ。弦や管はどう音をだすの?指揮棒はどうやって見るの?
ロッシーニやヴェルディのオペラ、マーラーの交響曲第7番にもギターのパートがある。現代のシェーンベルク以降、ブーレーズや武満はもちろん。ヒナステラやヴィラロボスも糸口になるだろう。TL(49)で話した「好奇心」のアンテナを最大限に張って色々な音楽を聴いて欲しい。
ツイートでレッスンに楽譜を導入しようとして、色々工夫しています。まずは右指の独立にオススメの定番練習から…読めるでしょうか?
PCでも、スマホでも問題なく読める様なので、楽譜付きのツイート・レッスンを始めます。色々な日々の練習のサンプルを提示していけたらと思います。
全て同じ指使いで4つのパターンが生まれる。2弦をおさえず全部開放弦で表示した。各拍の頭にしっかりとアクセントをつけて、ゆっくりと確実を狙って練習する。速く弾くことは目的ではない。
昨日のTLで、なーんだ、こんな簡単な事やんの?と思っている人は次のステップに。朝、連ドラを観ながら、左手にコーヒー、右手にギターで15分練習。ここで問題、右手のアルペジオは残り4パターンあるが君は発見出来るだろうか?
昨日の答え。残り4つのパターンを示そう。同じ指を2度続けて弾かないという条件下で、3本指で4音だから12のパターンが生まれる。連続して弾く必要はない。ゆっくり確実に弾けるようにしよう。
例えばこのような感じで休息を入れて練習する。フェルマータの間は完全にリラックス。指が脱力している感覚を覚えるのが重要。ひとつのパターンが終わったら、指をブラブラと振って力を抜くのも良い。
もっとも大事な事を書き忘れた。i は人差し指、m は中指、a は薬指、p は親指を表す。初心者の為にあえて記します。
開放弦だけではつまらない!という人もいるだろう。そういう場合は即興的に自分流のエチュードを作ってみたら良い。例えばこんな具合に。メロディーのようなものを考え、自分なりの課題を与える。強弱、音色の変化、レガートなど。
昨日の即興エチュードの続き。指の流れは同じだがアクセントが中指に移る。滑らかに弾ければ合格。
アルペジオの基礎。もうひとつ課題を加えて、一旦この項を終える。実際、このパターンに低音(親指/p)を加えて複雑になって行くのだが、ここで小休止。
脱力について。演奏の時にどうしたら力が抜けるか?と多くの人が悩んでいる。正しく言い換えれば、どうしたら演奏に使うエネルギーが無駄なく楽器に伝わり、その直後の指や身体の力がすぐ抜けないのか?と言う事だろう。勘違いして撫でる様なタッチで弾いても力が抜けたとは言えない。
左手から言えば、しっかり押弦〜ポジション移動〜次の押弦という一連の流れのどこに脱力を入れるか。多くの人がニュートラル時に入力と脱力の感覚の落差を充分感じていない。力が抜けていなければいけない大事な瞬間に次を押さえなければ!いう意識が強くなって、感覚を失ってしまう。
よくあるケースは、「脱力している状態がどうなのかわからない」と言う人。ゆったりと風呂に入り肩まで浸かったら浮力で両手が浮いてくる。そこで指先だけを軽く動かし、ギターを弾いている自分を想像してリラックス。腕全体は水面に浮かんだまま。こういう感覚を記憶しておくと良い。
結局のところ、力を入れなければ演奏は出来ない。風呂に浸かっている様な演奏などあり得ない。あくまで脱力感覚を知るという事なので勘違いしないで。そういう意味では、エアーギターも感覚の手助けになる。凄く上手くなった自分を想像しながら弾くふりは良い。想像の限界点を知るだろう。
右手に関して「弦を弾(はじ)いた後はグッと握り込め」といった間違った教えが今だに存在している。しっかりした音が出ないのは握力が無いからだと思い込んでいる人も多い。握力強化の器具があるが、ほとんど役に立たない。すべての動作は指先の触覚、両耳の聴覚と連動している。
さて最も単純な左指の押さえ。5fで単純に2つの和音を交互に弾いてみよう。次の音を弾き急いでいないかチェックする。2つの動きは、下段の様に分解して考えるべきだ。ある押さえから次の動きに移る前に必ず脱力の瞬間がある。
少し難しく。前回同様1と2でも良いが、今日は1と3で。休符で下段の脱力を意識する。指の動きにつれて肘が左右に揺れるが、無理に止めなくて良い。自然な流れに任せて。確実に弦に触れてから押さえる。1と4でもトライしよう。
左指の動きをどんどん発展させていこう。2と3弦、少ない動きで休符の時の脱力を意識して押さえた指を入れ換える。次の下段ステップはなめらかにレガートで。出来たら低音を追加、さらに高音開放弦を加えて良いバランスを見つける。
ツイートでレッスンを再開。練習している曲の音源を探して参考に聴くのは良いけれど、大抵はその演奏の悪い部分を真似てしまうもの。プロの演奏には強い個性があり、それだけに毒の部分も多い。その中から大事な本質だけを判断して汲み取り、さらに自分の演奏に生かすのは容易ではない。
様式感、スタイル、語法を知る意味で同時代人の他の楽曲を聴くと良い。ソルならばシューベルト、メルツならリストやメンデルスゾーン、コストならベルリオーズ、さらにバリオスならクライスラーやサラサーテといった具合に。ギターの世界以外に目を向けないと音楽は広がって行かない。
例えば、ロマン派の曲を勉強していてポルタメントの表現がわからないとしよう。答えを求めてセゴビアばかり聴いていると余計な部分まで似てしまうもの。他の弦楽器(ティボーやクライスラー、カザルスなど)の歴史的な名演が数多く存在するのだから、そちらを聴いて様々な個性を知ろう。
クレッシェンドにともなって大きな音あるいは明晰さを求める結果か、ブリッジ寄りの硬い音のでる場所で弾弦する人が多い。(私も若い頃はそうだったと思う)が、ほとんどの場合、これは逆効果。豊かな音色を失ってしまう。基本の弾弦位置は、自分から見てサウンド・ホールのやや右側。
「音を表象する言葉」を考え、知るのは大事だ。同じ pp ピアニッシモでも、その横に lontano ロンターノ(伊)や loin ロワン(仏)「遠くから」と書いてあるのとないのでは全然イメージが変わる。遠くから聴こえてくる弱音を少し考えるだけで、もう演奏の結果が違う。
承前/一歩踏みこんで考えよう。同じpp lontanoと書いてあっても「霧の遠く向こうから、闇の中を囁きかけるようなpp」と「広大な草原をなびかせる、爽やかな微風のようなpp」と表象した場合、その表現の結果は大きく違ってくる。やはり音楽を表す言葉を持つことは大事だ。
しかし、勘違いには気をつけよう。いかに詩的な言葉で音を表せたとしても、練習、本番の結果が音楽として美しくなければ意味がない。けっして文章に置換出来ないところにその価値があるのだから。とは言え、言葉は想像力をかきたてる道具としてレッスンや指揮で必ず役立つ。
ツイートでレッスン、久々の再開。右指の第2関節を曲げて弦をつまみ上げる様に弾く人がいる。右指は付け根からの運動が基本となる。これは水泳のキックと同じ原理で大腿から動かさないと音が出ない。膝から曲げて水を蹴っても前に進むエネルギーにならない。音も同じなのだ。
その理想的な右指の運動はマルシン・ディラが見事に実現している。付け根から大胆に動かすが、決して乱暴にならない。いつも同じポイントが弦に当たり、繊細なボウイング(運弓)のようなタッチを生み出している。是非、演奏会で確認して欲しい。
承前。右指を付け根から動かすのが基本と書いた。アポヤンドもアルアイレも動きの基本は同じ。ただし、弦に対する微妙な触覚、感じ方の差。その切り替えは自然な音楽の要求に従うべきだ。レガートで太い旋律はアポヤンド、繊細で軽い流れはアルアイレという様に…
コンクールを受けるのはモチベーションを高くし、真の「実力」とそれを発揮出来る「舞台度胸」をつけるのには有効。だが、これが現代の国際コンクールとなると他者より大きな音で、速く、間違えずに弾く者が上位に行けるという様な「時代遅れの古い評価基準」は、もはや存在しない。
ミスが無い事は当然とされ、選曲のセンスも含め、しっかりした構築感、様式感、洗練されたリズム感、ダイナミズム、音色の多彩さなどが求められ、そこに「スケール感」と「個性」が求められる。精度が高くても、こじんまりとまとまっている人は評価されにくい。もちろん逆のケースも…
その世界基準から考えて、メリハリ〜リズム感の平坦さ、表現の振幅の狭さ、音の方向性と推進力の希薄さなど、我々には考えるべき共通のウィークポイントがある。自分をさらけ出すことや、ハッタリを嫌い、謙譲の美徳を重んじる国民性からなのか…もっと大胆に表現したいものだ。
約4カ月半ぶりに「ツイートでレッスン」を再開します。昨日、音大でのレッスンで言った事ですが、8分の曲(例えばソルの魔笛変奏曲)を10回通して弾くだけで単純計算で80分かかるんだよ。これを何日繰り返しても上達しない。易しい所も難しい所も同じ比率で練習しているから…
先ず、曲を分析する。分析と言っても難しく考えてないで、最初は曲を幾つかのパーツに分ける。で、一番易しい事から開始する。古典やロマン派の場合、旋律から開始する。メロディー・ラインを何度も弾く。完成形の運指に頼る事はない。まずは旋律だけを徹底的に耳で記憶。諦めずに!
承前/単旋律を、フレージング、音色、イントネーション(抑揚)ダイナミズム(強弱)アーティキュレーション(メリハリ)など様々な観点から追求する時間を増やして欲しい。ギタリストもヴァイオリンやフルート他の管楽器同様に、まず単旋律が自在に操れるように。アルペジオはその後!
愛のロマンス(禁じられた遊び)を弾くにしても、アルペジオにいきなり挑戦するのではなく、先ず単旋律で1弦をスムーズに扱えるかどうか徹底的に試すこと。単旋律でレガートに弾けない場合、左手の移動に問題があるのか、左右のシンクロに問題があるのか、要因を最初に見つける事!
昨日は下は13才から20代前半の若者4人と年配の方1人をレッスンした。全員高度な曲が弾けるのだが、音楽の骨格が弱いと感じた。バリオス、バッハ、ウォルトン、宍戸、ロドリーゴ、どの時代の音楽も、骨格となる旋律の表現をしっかり、それを支える低音、内部を彩る和声へと進むべき。
ある旋律線が上手く歌えない、レガートに繋がらない、抑揚が表せない、などの問題があった場合、躊躇せずオクターブ上や下に移調して、つまり弦を変えてトライすること。耳が、各指が、自分の感じる音程の感覚が鍛えられるからだ。昨日はウォルトンのバガテル1の中間部で試してみた。
一本の線で書かれたような音楽、例えばバリオスの蜜蜂やバッハのサラバンド・ドゥーブルでは、その線の中に隠れている骨格音を見つけなければならない。音の動きをただ指の動きに任せて芋づる式に追いかける練習方法だと、途中で場面転換する大事な転調が起こっても気づかない。
アクセントは、ただ単に「その音を強く弾く」という意味ではない。アクセント記号は、単純に上から下に打ち下ろせと言う指示ではない。下からフワリとすくい上げる、横からはらう、そっと優しく押す、などなど様々な方向に働き、音楽に命を与えるのがアクセント。それは音楽のスパイス。
クレッシェンド(Cresc.)、ディミニュエンド(dim.)記号は大抵早めに書かれることが多い。実際に音量を上げ(下げ)し始めるのは書かれてある場所より数拍、あるいは数小節後ろだ。
フェルマータはただ単純に間を引き伸ばす表現ではない。どんな音も自然界にある物理的な運動の法則に逆らうことは出来ない。ある音を発したら、その音は表情、音量、質量や方向に瞬間的に支配され、着地点はすでに決まっている。フェルマータの長さは、伸ばす前の弾きかたで決まる。
従ってフェルマータの表現によって惹き起こされる官能美や、ある種のカタルシスに特定の意味を持たせ、聴き手に感動を与えるには教養がいる。だだ伸ばしただけのフェルマータは「あ〜ほ〜」と言ってるに近く、カッコ悪い。なんとかならんか。
気に入った演奏のある部分を真似ても、良い演奏にはならない。大抵、君が簡単に真似れる部分なんて、その演奏のダメな部分、欠点なのだよ。悪い事を真似るのは簡単だが、本当に良い事は真似れない。君が真似た演奏が良い演奏だと言う自信があるのか?本当に良い部分は簡単には真似れない。
ある演奏を聴いて上手いなあと思ったら、感心感動しているだけではダメ。何故、自分は感心したのか、どうして心を動かされたのかと、自分の心の中を探らないと…
その行為がないと、いつまでたっても音楽の中に入っていけない。永久に、ただの鑑賞者で終わってしまうよ。
ギターの様な平均律フレットの撥弦楽器にとって、ヴィブラートは減衰する音を補強する役目が大きい。音程の変化がわかるほどの振幅の大きなヴィブラートは気持ち悪いし、急速なチリメン・ヴィブラートも考えもの。特に残響の長い、余韻の美しいホールではかける必要もない場合が多い。
ヴィブラートの基本は本来の弦の持つ振動、弾いた後の響き、その余韻を妨害しない様にかけることにある。従って低音はゆったりとかけ、高くなるほど速くなる。しかし、それとわかるほどにヴィブラートを感じさせる演奏となると問題。そこで、その人の趣味や感性を問われることになる。
一般的に、指先だけでかける速いヴィブラートは作為的、人工的な表現になりやすい。腕から手首全体の大きな、しなやかな運動を指先に伝えるのが理想的。基本はトリルの運動に近い。1-2-1-2-1とトリルをかけてみて、まだ余韻として揺れている1の指先を感じる。2-3、3-4も。
アクセントは単に>記号が書かれた音符を強く弾くことではない。生きたリズムと表現を持って、上から下から横から、あらゆる方向から作用するのがアクセント。その中には優しく押すような表情アクセントもあり、針で突き刺すような鋭いアクセントもある。多彩なアクセントでメリハリを!
アクセントと同時に前述のヴィブラートをかけると、表情は付くにせよ、趣味の悪い演奏になる。弾く前からヴィブラートをかけるなど言語道断。他のいかなる弦楽器にもない弾き方。正しい音程を認識してからヴィブラートによって音に揺れを与えるのが本筋。
このところ、19世紀ギターにガット(羊腸)弦を張って指頭奏法でバッハを練習している。爪に頼らず、しっかりと弦を捉える練習を重ねているが、それに慣れてくると現代の曲でも色々な表現に使える事がわかってくる。やはり爪の質よりもタッチが重要だと指頭奏法で再確認。
ここで言う指頭奏法は、指頭スレスレまで爪を削り、ペーパーでちゃんと磨く。爪の側面を使って、ややすくい上げるような感じの弾き方。やはり爪の端、指頭、弦が同時に触れる場所にいつもピンポイントでタッチする。指先の神経、触覚を大事にして演奏する。
完全な指頭奏法では、音は柔らかくなるが芯がなくなって質量が失われる。だから少しだけ爪を使うのだが、弦に対して垂直に弾いては逆効果。細くか弱い音になる。太さと輝き、芯のある、質量のある音を求めるなら爪の側面を感じながら、斜めに滑るように弾く。そのコントロールは難しい。
引き続き右指の話。アポヤンドで指先の関節を反らして弾くと、それなりに甘い良い音色がするがパワーと遠達性が得られない。基本的にはぺぺ・ロメロ先生の解説に賛成。もちろん、目指している音質は違うのだけれども…
右手首に力が入り、固まってしまって指がスムースに動かない、上手く音色の変化が出来ないと悩む人が多い。そういう人を見ていると、たいてい左手首にも同じ問題を持っている。人間の身体は左右対称なのだ。
両手首は前後左右に曲げすぎない、指先までがなだらかなカーブを描いて脱力!
左手首の脱力と言われても、クラシックの場合は指の動く範囲が広く、様々な動きが要求される。迷った時は、ロックやジャズの名手の左手を観察すると良い。クラプトンやブラックモアなどの脱力には感服するし、演奏姿勢も含めてジョー・パスの脱力感は、私の理想だ。
久々にツイートでレッスンを再開します。メルツやコストなど19世紀ロマン派のギター音楽にトライしている生徒さんは多いが、皆スタイルがよくわからないらしい。参考に聴くべき音楽は、リストだと思う。特にメルツはリストの模倣とも思えてくる。
最近のNMLから
〈補筆〉最近、ベルマンだけでなくアラウ、ブレンデルなど多くのリスト演奏が、ナクソスMLにアップされた。クリダの残した金字塔全曲なども!
この本は何度読み返しても、興味深く、私たちが音楽することの意味、多くの示唆が書かれていて、素晴らしい。ギタリストだけでなく、音楽家を目指す人は必読の書!(補筆/引用)撥弦楽器では(略)人が聴くのは音の入りだけで、音はその後消えてしまう…その残りはファンタジーが補うのであって、現実の音は消えているが、この消失は音が終わったのではない。音は内面の耳で聞かれ続け、次の音符の入りではじめて止められたことを意味している。
ブリテンのノクターナルにはダウランドの「来れ、深き眠りよ」、ファリャのドビュッシー讃歌にドビュッシーの「グラナダの夕べ」からの引用があるように、武満 徹(上)のフォリオスにはバッハのマタイ受難曲(下)からの引用がある。プロを目指すギタリストはせめて原典を知って欲しい。
リズムについて敏感に。同じ3拍子でも3/8のワルツと3/4のワルツは違う。メヌエット、ポロネーズ、マズルカ、どれも微妙に拍の重み、弾み方が異なる。ヨーロッパ貴族から離れたスペイン舞曲の3拍子ではファンダンゴ、ホタなど、民俗的により濃厚になる。先ずは、沢山聴いて、感じること!
ソルはメヌエット作家として一流だったと思う。特に作品11では、転調を含めあらゆる語法が試されている。ギターの楽器法、特に変則調弦の可能性をメヌエットで探ったのだろう。中級者以上のギタリストにお薦めの教材。残念ながらソルのワルツは工夫が少ない。そちらはジュリアーニが上。
ソルのメヌエットOp.11の最初の3つを見てみよう。変則調弦で⑥がレ、⑤がソ、ト長調-ト短調-ト長調のセットになっている。先ずはそれぞれ同じ3拍子のメヌエットでも、リズムが違って書かれていることに注目。No.1は八分音符の歩み、No.2はアルペジオ、No.3はファンファーレのように始まる。
ソルの12のメヌエットの実験はリズムだけではない。ソナタのように、先ず相反する性格の2つのフレーズを提示してから短い展開を加え、簡潔で小気味良い仕上げをする19世紀の職人技。難しいことはさておき、コントラストを楽しんで演奏して欲しい。技巧的なエチュードに疲れた時にお薦め。
古典期のメヌエットのリズムを理解しようと思えばハイドン、モーツァルトの交響曲や、ソナタの第3楽章を聴きまくるしかない。曲に合わせ、指揮者になったつもりで手を動かしてリズムを体感するのが手っ取り早い。これがベートーヴェン時代になるとスケルツォに変化して速くなるので要注意。
メヌエットなんだからのんびり弾いて良い、とは限らない。ソルの第二ソナタOp.25の終楽章は快速調。メヌエットだからもっと弾んでとも限らない。Op.11-4番のようにまったり始まる小品も…音楽の世界は例外だらけ、だから楽しい。バラエティを知ろう。メヌエット考終了、次回から別項
ハーモニックス奏法。左指を指定のポジションに触れて鳴らす自然ハーモニックスの場合、そのフレットの真上を触れて鳴るのは5、7、12、19各フレットのみ。3フレットの指定の時は少し(数ミリ)4フレット寄り、4フレットの時は少し3フレット寄りを触れる。これ、プロでも知らない人が多い。
ハーモニックス奏法。自然ハーモニックスの場合、指定のフレットに触れて右指で弾いても、弦は正しく発音しない。左指は指定の位置にボウっといるのではなく、瞬時に弦から離す動作が必要。ギターやハープなどの撥弦楽器の基礎技巧。反射神経のいる作業だが、右左の指のシンクロが要となる。
(補筆)自然ハーモニックスの場合、ただ左指で触れて右指で弾いただけでは良い音は得られない。右で弾くと同時に左でも弾いて音楽を表現している感覚を持たないと…
ギターのピチカート奏法。ブリッジに掌の小指がわ側面を触れて弾くのだが、弦にかける圧力が強すぎる演奏を非常に多く見かける。目的はピチカートという種類の美しい音色、楽音を作るのであって、楽器そのものの響きを殺してしまってはいけない。
ピチカート奏法の時にブリッジの振動を小指側の手のひらで感じること。特に弾き終わった後も、持続している振動を感じないと楽音にならない。もちろんポピュラー音楽例えばタンゴなどのミュート奏法の様にわざと音を殺す弾き方もある。ここで言うのはクラシック音楽で使われる一般的な奏法。
ピチカートと似た技術にetouffez/エトゥフェがある。ソルなどはその幻想曲の中で頻繁に用いた。本来、息を殺してと言う意味合いの言葉であって、ボコボコした音程のわからない弾き方はソルの意図ではないと思う。譜例は作品7第2幻想曲の第5変奏。この場合軽く手のひらを当てるだけで良い。