タイムドメイン社から主力製品「Yoshii9」(写真1)、「TIMEDOMAIN mini」(写真2)を発売してそれぞれ3年、2年弱となります。口コミだけでの販売ですが、おかげさまで昨年度になってやっと黒字を計上することが出来ました。買って下さっている方の多くはオーディオにそれほど関心なかった方や、音楽関係の方が多いようです。また女性が多いのも今までのオーディオではあまり経験のない現象です。このような人たちは諸事情で今までのオーディオに魅力を感じなかったか、なじめなかった人たちであり、自分の音楽がオーディオ装置で壊されるのに耐えられなかった音楽家たちでもあります。
われわれ自身も意識してオーディオマスコミや従来のオーディオ市場を避けていた傾向もあります。従来のオーディオとなじまない部分も多くあるし、従来の常識で扱われると多くの誤解を生じるおそれもあります。根気よくコミットしていけばよいのでしょうが、数人でやっている企業にそれだけの余裕がありません。従来の世界とはかかわらず、新しい地に新しい世界を拓く方が楽だという考えでやってきました。幸い理解者も増え世界の企業にライセンスするようにもなり、大学などで講義も聞いていただくようにもなり世界各国に輸出するに至りました。従来オーディオを否定するのではありませんが、早く我々の提案が世に広まればと願っております。
従来、音響工学やそれに基づいたオーディオ技術(アンプ技術、スピーカー技術、その他)は、(1)周波数特性(2)ひずみ(3)S/N(ラウドネス)を基本の考えとしたものが専らでしたから、特に区別の必要がなかったのですが、我々は研究の必要上20数年前から、従来の理論技術をFrequency Domain,新しい考えをTime Domainと区別させていただいております。上記3点に関して述べてみますと
再生音楽を聴いて感動するための必要条件に「自然さ」があります。良い音の必要条件でもあります。人は不自然なものに対するチェック機能に優れております。これは自己防衛のために自然に備わった機能です。現代人は人工的なものに囲まれ、不自然なものに対するチェック機能は薄れておりますが、本能的に持っております。
音に対してもチェック機能が働き、不自然な音に対しては意識領域と潜在意識領域の間にあるゲートが閉じてしまいますので、再生音楽は心の領域には達しません。オーディオオタクがいくらすごい音でしょう、とデモっても意識領域で理屈で聴いているだけで感動には至りません。自然であれば警戒は無くなり、ゲートはオープンになりますから、音楽は心の領域で受けられます。
欧米の顧客はオーディオの善し悪しを、その装置が音楽の感動をどれだけ引き出せるか、で評価しているようです。音楽のジャンルが何であっても評価できます。対して日本のオーディオオタク(悪い意味で)は音の断片を聴いて良い悪いをうんぬんしているようです。結果として一般人には魅力も関心も無いオーディオ固有の音の世界となっているようです。
オーディオは趣味としてみれば自然であろうが人工的であろうが、本人が求め満足していればよしとすべきでしょう。タイムドメインは自然さを求めます。人工的オーディオは元気な時には聴けますが、疲れた時、特に精神的に疲れている時は聴く気になれません。これは潜在意識領域では排除しているからです。本当は糧となる食品が、農薬や添加物などの不自然なもので知らずしらずに身体をスポイルしているように、心の糧となるはずの音楽も不自然な再生で精神をスポイルしている怖れは無いのでしょうか。胎児や幼児には特にその怖れがあります。ご存知のように人の脳は外部刺激によって創られます。悪い音、不自然な音で創られた脳(心)を憂慮します。脳のでき上がった大人が自分の責任で味わう分には何でも構わないと言えますが。
エントロピーの増大をミニマムに抑えるべく留意して創られたシステムでは従来聞こえなかった(入っているとは思っていなかった)音が聞こえます。たとえばバックグランドの物音などでは、聞こえるか聞こえないかの客観的な評価ができます。正弦波のテスト信号では可聴帯域全域にわたって、CDの最小信号レベルまで再生できるシステムなのに、実信号では聞こえない音が沢山ある、という現象があります。崩壊と消失を考えれば当然の事象です。はっきり聞える筈の物音が聞こえないということは、楽音の微妙な表情を再生できていないということです。これでは感動に至りません。音楽家が高価な楽器を入手し、毎日の過酷な訓練で表現しようとしているものをチャンと再生するのがエンジニアの努めだと考えます。オーディオオタクや売れればよい商品としてのオーディオの考えではありません。
おおかたのオーディオシステムにおいて、大体の音は再生出来ています。普通で6、7割、超高級で8、9割(独断の尺度です)。残りの2割1割、1%がおいしい部分、感動に必要な大切な部分と確信しております。自然さや微少成分再生の結果としての感動は、原音と比較するまでも無く、音楽のジャンルにも関係なく、音楽やオーディオに関する教養が無くとも誰にでも分かります。
いくら良いオーディオでも生演奏には及ばないでしょう、と言う声を聞きます。私はそうは思いません。昔、年に100回も演奏会に通ったことがありました。でも良かったな、と思ったのはせいぜい数回でした。ホールの問題も含めて会心の演奏にはなかなか当たりません。ジャズクラブへ行っても2流のプレーヤーが変なスピーカーを使っての演奏で、なかなか感動には至りません。超一流のプレーヤーもきらきら輝いている期間はほんの僅かです。大抵輝きを失っているか故人になっています。レコードには素晴らしい演奏が残っています。それをチャンと再生すれば何時でも素晴らしい感動を得ることができます。また世界中に素晴らしい音楽があります。その感動を皆に伝えるのがオーディオ技術者の、研究者の使命ではないでしょうか。論文のための研究、売れる商品のためのエンジニアリング、という風潮を憂慮します。
1枚のレコードに、何億円もする名画以上の感動が入っています。世界中の人に毎日感動の生活を送っていただきたい。それがタイムドメインの願いであります。